終身雇用は崩壊する。
―そう言われ始めてから、一体どれだけの時間が経ったのだろう。
バブル全盛の1989年。
―28年後に東芝が東証一部から姿を消すことを誰が予見できただろう。
安定を捨て、仕事を辞める。
―2年前の私は想像もしていなかっただろう。
100年も生きれば、予想もつかないことが幾度となく起きる。不思議なことではない。
恥ずかしながら、本書と出会ったのは仕事を辞めて本を読むようになってからだった。
退職前に出会っていたら、また少し違っていたのだろうか。いや、変わらないか。
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いきなり蛇足
いきなりで申し訳ないのだが、どうでも良い話から入ってみようと思う。
本書は装丁が良い。
カバーはもちろんシンプルでいいのだが、外して見える表紙がとても気に入った。
どうだろう。
なんとなく、カッコよくないだろうか。
私は気に入りすぎて、最初から最後までカバーを外して裸読みしていた。
若干気になったのだが、蛇足から入った場合も蛇足と呼ぶのだろうか。
LIFE SHIFT(ライフ・シフト)を勝手に要約すると
さて、本書LIFE SHIFT(ライフ・シフト)の内容を、勝手に3つのポイントに要約してみた。
- 100年いきるのが”普通”の世界に過去の”普通”は通用しない
- 視野を広く持て、常に学べ、さもなくば老いさらばえるだけだ
- 恐れがもたらす不作為(何もしない)は、恐怖の結果を生む
2007年うまれは2114年まで生きる
冒頭で平均寿命のデータに触れてから本書は始まる。
2007年生まれの子どもたちの寿命に関するデータだ。
より具体的に言うと「2007年生まれの子供の半数が到達する年齢」である。
アメリカやカナダ、イタリア、フランスで生まれた子供の50%は、少なくとも104歳まで生きるという見通しであり、日本に至っては50%が107歳まで生きるというのだ。
100年生きるのが極めて難しかった時代はすでに通り過ぎ、100年ライフが当たり前になっていくことを示している。
平均寿命の上昇は、一口に医療技術の発達だけとは言えない。
勿論それも一因なのだが、乳幼児死亡率の改善や、栄養水準の改善、人々の健康意識の向上、所得水準の上昇による生活水準の改善など、様々な要因によって平均寿命が伸びている。
データを分析すると、10年ごとに平均2~3年のペースで平均寿命が上昇しており、今後も伸びていくことが予想される。若い人ほど、長く生きる可能性が高くなっていくのだ。
そんな世の中で、人々は疑問を持ち始める。
100年いきる世界において、60歳で引退することは現実的なのだろうか。
その問に具体的な答えを示すのが本書、「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略」である。
3ステージがマルチステージに
終身雇用の終わりなどと言われても、まだまだ崩壊と呼べるほどは変わっていない。
そもそも私は終身雇用が悪い制度だとは思わない。職業選択の自由は労働者側にあるわけで、その組織の雇用の在り方に不満があるなら自分で変えるか、辞めてしまえばいい。
ただ、終身雇用にしがみついていたら、時代に取り残されるというのは間違いないだろう。それは企業側が自覚しなければならない。
本書では、既存のライフスタンダードである「3ステージ」型が「マルチステージ」型に変わっていくだろうと著している。
3ステージ型(教育→仕事→引退)
教育に始まり、仕事、引退まで同世代が一斉に行進する人生。学校を卒業したら、新卒という形で就職し、60歳には定年退職して老後ライフへ向かう、これまでのスタンダードモデル。
マルチステージ型
変わりゆく時代と共に、複数のキャリアを渡り歩くタイプ。常に学ぶことを辞めず、必要とされるスキルを磨き続ける。組織に属したり、自分で事業を行ったり、兼業したり、決まった形は無い。
ライフ・シフトは何故必要なのか
大切なのは、常に新しいことを学ぶ気持ちを持って、積極的にキャリアチェンジすること。
では何故このような変化が必要とされているのか。
それは、不確実性に備えるためだ。
人間の寿命は今後も年々伸び、100歳まで生きることが珍しくない時代が到来するが、一方で会社の寿命というのは思ったよりも短い。
東京商工リサーチの調査によれば、2017年に倒産した企業の平均寿命は23.5年。業歴30年以上の老舗企業は2,288件(構成比31.2%)であった。
東京商工リサーチ<2017年「業歴30年以上の『老舗』企業倒産」調査>
つまり、終身雇用などといって、大学卒業後の約40年間の雇用確約をとりつけたとしても、その殆どが道半ばで消滅してしまう。それは老舗企業だろうと例外ではない。
冒頭に触れたように、東芝のような大企業でも、日々流転する世界の中では変化に飲まれることがある。
100年以上生きると考えれば、1つの組織だけに属して人生を終えることの難しさがわかるだろう。
創業した会社の約70%が3年以内に倒産しているという調査がある。1年以内の倒産が30~40%、10年以内の倒産は93%。 会社を存続させるのはそれだけ難しいということの表れだ。
ワークスタイルのダイバーシティ
ダイバーシティ。流行りに乗っかって気取った言葉を使ってしまったが、要は多様性のことだ。
最近の使われ方としては「多様性の受容」という意味合いが強いだろうか。
社会的マイノリティーを差別なく受け入れる、ある種の記号として使われることが多い。
本書では主に3パターンのワークスタイルについて言及されている。
インディペンデント・プロデューサー
組織に雇われること無く、独立した立場で経済活動に携わる。旧来のキャリアの道筋から外れ、自分でビジネスを始めた人たちが生きるステージ。
ひとことで言うと、職を探す人ではなく、自分の食を生み出す人。
エクスプローラー(探求者)
周囲の世界を探査し、その世界に何があり、何が重要かを発見する。また、自分の得意分野や潜在的に取り組みたいことなどを掘り当て、磨き上げるステージ。あえて陳腐な言葉を使って表すと”自分探しの旅”である。
いかにも若者向きだと捉えられるかもしれないが、エクスプローラーに年齢は関係ない。本書では適齢期として以下の期間が挙げられている。
それは、18~30歳ぐらいの時期、40代半ばの時期、そして70~80歳ぐらいの時期である。
―「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)100年時代の人生戦略」234ページより
ポートフォリオ・ワーカー
異なる種類の活動を同時に行う人。企業に勤務しながら副業をしたり、NPOやその他の組織に関わって活動するなど、複数事業に同時進行で携わる。
所得を形成するメインの職を持った上で、生きがいを求める事業をサブ的に持つ場合などが考えられる。
本書を読んで
さて、私は昨年、仕事を辞めて「エクスプローラー」となったわけだ。
リスクヘッジを考えるのであれば、職を持ちながら副業をこなすポートフォリオ・ワーカーが最も安全な選択と言えるかもしれない。
しかし、公務員はもちろん、一般企業では副業禁止規定が根強い。私の所属していた組織でも、副業は禁止されていた。
副業を許可すると、本業に専念しなくなるのではないかという性悪説が依然として独り歩きしている。
そんな中でも、ここ数年でコニカミノルタやロート製薬、DeNAなどの大手では、次々と副業が解禁されたようだ。
副業によって得られる人脈や育まれるビジネススキルに企業が気づき、徐々にその裾野を広げているのだ。
また、奈良県生駒市では市役所職員の副業推進が始まったという。
この取組には驚かされた。もっと多くの自治体に広がることが期待される。
正直な所、本書の内容は万人向けではない。
高齢化が進めば、当然介護が必要な人も増え、施設の支援を受けられなければ介護離職をする人も増える。
そんな中、失敗を恐れず、学ぶことを辞めず、安定した収入を捨てて、組織に囚われない生き方が出来るだろうか。
実際は難しいだろう。私のように、守るべきものが少ない人間であれば、自分の将来を担保に危ない懸けにも興じることができる。
結婚して子供もいて、親の介護もあるという人にとって、マルチステージの人生は少し荷が重いのかもしれない。
それでも、やる人はやるのだから、負けていられない。
ちなみに本書は、428ページ。分厚い。
非常に読み応えがあり、何より、読んで堪える1冊であった。